唄歌いギタリストとして活動中のVagu*Projectと並行し、ソロ活動にも本格的に取り組みだしたYuI -唯-。コロナ禍の影響により、当初より予定は少し遅れてしまったが、ついに大安の日となる8月29日(土)に1stシングル「Tetris」の配信/CDを販売する。
収録した「Tetris」「Pierce」「From」とも、Vagu*Projectのセルフカバー曲。ただし、バンドスタイルとは異なり、どれも情熱的なピアノロックに装いを変えているところが嬉しい聞きどころになっている。その理由を、YuI -唯-は以下のように答えてくれた。
ソロとして提唱するピアノロックという形をわかりやすく提示したかった。
――YuI -唯-さんは、Vagu*Projectの唄歌いギタリストとしても活動をしています。まずは、なぜYuI -唯-としてソロ活動を始めたのか、そこから教えてください。
YuI -唯- 自分が活動をしているVagu*Projectというバンドは、「オラオラ系のインダストリアルメタルバンド」というスタイルで活動をしています。その枠を掲げていたことから、あえて表現を逸脱しないようにしていた面もありました。でも、自分の中には「こういう表現も出来る」「こういう可能性も試してみたい」欲求があった。それを具体的な形にしたい気持ちが高まったことが、バンドと並行する形でソロ活動にも踏み切った理由になります。
――そこから、具体的な作業へ入り始めたわけだ。
YuI -唯- そうです。最初は作品を作り上げ、それを2020年中に発表していこうと計画をしていました。でも、2月からコロナの影響がVagu*Projectとしてのライブ活動にも影響を及ぼせば、3月後半には表立った音楽活動が出来ない状態へ陥りました。自粛期間中、Vagu*Projectとしての活動は停止。でも、この時間を無駄にしたくなかったからこそ、ファンの人たちに音楽という楽しみを届けようと、まずはソロとして活動することを表立って宣言。同時に、楽曲の制作活動に入りました。
――YuI -唯-さん自身は、バンドとソロ活動の違いをどのように切り換えているのでしょうか。
YuI -唯- Vagu*Projectは3人のメンバーで活動を行えば、ある程度制限を設けた中で表現をしていく場になる。ソロは、その結果がプラスでもマイナスだろうとすべて自分の責任。だからこそ、徹底して突き詰められる場にもなる。ソロに関しては、すべてを一人でやることからいろいろ大変さはありますけど。でも、いろんな限界点を設けなくて良いところはいいですね。
――サウンド面でも、Vagu*ProjectとYuI -唯-ではまったくアプローチが違いますからね。
YuI -唯- Vagu*Projectの楽曲も僕が作詞/作曲を担当しているんですけど、バンドとソロの音楽性面での表現に差がないと面白くないなと思いまして…。ソロとして表現しているのは、アコースティックな雰囲気を軸に据えた音楽性。中でもピアノの音色が象徴的なように、ピアノロックというエッセンスを最大限に活かした音楽として表現しています。
――公開したMV「Tetris」を筆頭に、8月29日(土)に発売/配信する音源に収録した「Pierce」「From」の3曲はVagu*Projectの楽曲になります。
YuI -唯- 1stシングルには、あえてVagu*Projectの楽曲のセルフカバーを収録しました。理由は、「同じメロディーラインを持った楽曲でも、伴奏や歌い方を変えるだけで、こんなにも曲の表情が変わるんだよ」という姿を最初に提示。そこに、ソロとして表現してゆく意味や理由を示したかったからなんです。映画も一緒じゃないですか。作品をリメイクするうえでも、監督の表現の手腕次第で同じ物語でも内容が異なれば、作品のクオリティにも差が出てゆく。シリーズ映画も、そう。監督が変わることで、同じシリーズ作品の中でも善し悪しが如実に現れる。つまり、脚本は同じでも、角度を変えると違った良さを出せることを、まずは示したいなと思ったからなんです。
Vagu*Projectファンたちに向けての場合、その違いをまずは楽しんで欲しかった。新たにYuI -唯-を知った方々には、ソロとして提唱するピアノロックという形をわかりやすく提示したかったことから、今回の形を取っています。
――バンドとソロ、二つの道はこれからも並行しながら追求していくのでしょうか。
YuI -唯- その違いの面白さを感じているからこそ、これからも追求し続けていきます。
世の中が歪んでいるからなのか、僕自身が歪んでいるせいなのか…。
――MV「Tetris」が公開になりました。同時に、1stシングル「Tetris」とブックレットの予約も通販ページよりスタート。音源はもちろん、ブックレットという形でヴィジュアル作品を提示してゆくところも特徴的だと感じました。
YuI -唯- 今回、3つのスタジオを用いて、異なるアプローチを示したヴィジュアル姿をさまざま撮影しました。これも、YuI -唯-として表現したいスタイル。音源同様に、ヴィジュアル表現も一つの作品として捉え、楽しんでもらえたらなと思っています。1stシングルの「Tetris」は、先にも述べたようにVagu*Projectのセルフカバー作品になります。中でも「Pierce」と「From」は、すでに完売した作品に収録していた曲たち。それをYuI -唯-の表現としてリ・アレンジした形ですが、手にしたいと思っている方々に届けようとの想いもありました。
「Tetris」は、今年1月にVagu*Projectが出したアルバム「壱 -one-」に収録した楽曲。この曲を作る際、自分の中に表現したいアプローチがたくさん生まれていた。その中の一つの形を、当時は「壱 -one-」の中へ収録したわけですが。そのときに生まれていたアイデアの一つを、今回、YuI -唯-として打ち出したかったピアノロックとして示しました。
――ピアノロックという言葉通り、どの曲からも情熱的なピアノの演奏が飛びだします。
YuI -唯- 楽曲の編曲面にはもちろん僕も携わっていますが、今回、友人の”ますく”というミュージシャンがピアノの演奏はもちろん、楽曲アレンジにも積極的に携わってくれています。そのこだわりをぜひ感じて欲しいのと、その音楽性を視覚面にも投影しようと、ボクはMVの中でジャズダンスも披露。こちらは、振付師の恩田和典さんという、僕のジャズダンスの師匠に振り付けをお願いしました。
――「Tetris」とアーティスト写真はリンクしているとも聴きましたが…。
YuI -唯- そうなんです。「Tetris」が生まれるモチーフになったのが、藤子不二雄Ⓐが描いた「笑ゥせぇるすまん」。昔、テトリスというゲームが流行りました。これは、落ちてくるブロックを回転させ、下のブロックと上手く重ね合わせることでブロックを次々と消してゆく内容。いわゆる「隙間を埋めて消してゆく」ゲームなわけですけど。「笑ゥせぇるすまん」のキャッチフレーズも、「あなたの心の隙間をお埋めします」なんですね。
この漫画、心の隙間をお埋めしますと言ってるように、その人の欲望の手助けをすることで、一時的にその人の心を満たしますけど。最終的にはみんな不幸になってゆく。それを遠目で見ながら高笑いする喪黒福造の姿こそ自分が表現したかったシニカルな視線と共通していたことから、アーティスト写真の一つとして示せば、それを形にした「Tetris」という楽曲を、装いを変えてYuI -唯-としても表現したわけなんです。
――世の中をシニカルに観てゆく視線は、YuI -唯-さん自身の表現の特色でもありません?
YuI -唯- そういう傾向は、全体的に強いですね。そうなってしまうのも、僕自身あまり感情の起伏がない人だからかも知れません。
――感情の起伏が乏しいと??
YuI -唯- そうです。僕の場合、普段から「怒る」「泣く」「笑う」など感情が動くことが少ない性格。人が楽しそうにしている様を見ていても、それを理解できないことも多い。それくらい深層心理の面でけっこう醒めているように、その部分が歌詞の表現にも自然に反映していくんだと思います。
よくシニカルな表現と言われますが、僕自身は感情をストレートに表現しています。だけど、その視点が歪んで見えてゆくのは、世の中が歪んでいるからなのか、僕自身が歪んでいるせいなのか…。その辺の視点でも楽しんでもらえたらなと思っています。ちなみに、「Tetris」のMVに登場している僕も、喪黒福造をモチーフにした姿として捉えてもらえたら、より楽しめると思います。
――10月には2ndシングルの発売を予定しています。そちらも、Vagu*Projectのカバーなるのでしょうか。
YuI -唯- こちらはソロとしてのオリジナル曲を中心に収録します。その曲たちを示すことで、よりバンドとソロの表現の道の違いが明確化されてゆくはずです。むしろ、Vagu*Projectではやらない表現を積極的に示してこそ、ソロとしてやる意味や意義が生まれること。そこを楽しみにしていてください。
エンターテイメントカルチャーを楽しむ中の一つとして、「もし良かったら僕の音楽も手に取って見ませんか」という姿勢でやっています。
――ソロの場合、ライブ活動を軸に据えているわけではないんですよね。
YuI -唯- ソロ活動は、オンライン上を中心に作った作品を広めてゆくことを主軸にしていきます。もちろんライブをやらないわけではなく、やるとしてもライブハウス以外の空間で行うなど、無理にライブを押し進めようとは思っていません。
――ライブハウス以外の空間というのが気になります。
YuI -唯- たとえば、デザインフェスタのような場に設置されたライブスペースだったり。YuI -唯-としての作品の発表や販売の場としても、僕はデザインフェスタ・コミックマーケット・アーティズムマーケット・M3のような、個人が創作物を出展販売してゆく場へ積極的に出展しては、自分の作品を示そうと思っています。
Vagu*Projectはライブバンドであるように、ライブハウスという場へ積極的に出ていくのが活動の軸になりますけど。YuI -唯-に関しては、それこそ名詞カード1枚の中へQRコードを示し、それを読み取ってもらえたらYuI -唯-の世界へ飛び込んでいけるような形を押し進めていきたい。むしろ、それが今の時代にフィットしたアーティストとしての表現スタイル。同時に、ヴィジュアル系という枠を越えたところでファンをつかみ、結果的に、それがヴィジュアル系というシーンにもフィードバックしていけば良いなという姿勢でいます。
――だから、YuI -唯-としては積極的に動画もアップロードしているわけだ。
YuI -唯- そうなんです。MVを軸として映像制作はもちろん。個人的に「弾いてみた」のようなカバー曲を演奏し、映像として届けることも好きなように、そういった活動も積極的にやっていきます。
――今後も、どんな風に表現してゆくのか楽しみにしています。
YuI -唯- これは僕自身の考え方ですけど。アーティスト活動って、エゴイストでなければ出来ないこと。もちろん、ファンになってくれた一人一人をいかに手放さないようにと、お客さんへ固執してゆく活動も否定はしません。ただ、それをアーティスト側が強要することで、お客さんの楽しむ余裕を奪ってしまうのはどうなのか…。
僕自身が、ジャンルという枠を超え多種多様な音楽を楽しんでいます。いや、音楽どころか、様々なエンターテイメントなカルチャーを楽しんでいる。お客さんたちも、やはりそうであるべきなんですよね。もちろん僕は、自分の音楽に触れてもらえれば「良かった」と思わせる自信はあります。だからと言って僕の音楽だけに触れて欲しいではなく、いろんなエンターテイメントカルチャーを楽しむ中の一つとして、「もし良かったら僕の音楽も手に取って見ませんか」という姿勢でやっていますし、みなさんにもそういう感覚でYuI -唯-の音楽に触れてもらえたらなと思っています。ぜひ、一度触れてみてください。
TEXT:長澤智典
「Tetris」MV
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